処方薬の効果と副作用

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ゲーベンクリームの効果と特徴

ゲーベンクリーム(一般名:スルファジアジン銀)は1982年から発売されている皮膚潰瘍治療薬です。

主に寝たきりの方などに発症してしまった褥瘡に対する治療薬として使われることが多いゲーベンクリームですが、どのような効果が期待できるお薬なのでしょうか。

皮膚外用薬はたくさんの種類があるため、それぞれがどのような特徴を持つのか一般の方にとっては分かりにくいと思います。

ゲーベンクリームがどんな特徴のあるお薬で、どんな患者さんに向いているお薬なのか、ゲーベンクリームの効果や特徴についてみてみましょう。

 

1.ゲーベンクリームの特徴

まずはゲーベンクリームの特徴をざっくりと紹介します。

ゲーベンクリームは、他の皮膚潰瘍治療薬と異なり、抗菌作用を併せ持っていることが大きな特徴です。

ゲーベンクリームに含まれる銀が細菌の細胞膜・細胞壁に対して抗菌作用を発揮するため、皮膚感染を防ぎながら皮膚の創傷を治癒を促進してくれるお薬なのです。

つまり、治療中に皮膚の二次感染を起こす可能性が高いケースにおいて、効果を発揮しやすいお薬だと言えます。

具体的には寝たきり患者さんの臀部や肛門付近に出来た褥瘡などが典型的です。寝たきり患者さんは、自分ではトイレに行けないため、おむつなどで排便される事も多いのですが、そういった中で肛門付近に褥瘡が出来てしまうと、便が褥瘡についてしまう可能性が高くなります。

便は腸内細菌をはじめとした様々な細菌を含んでいるため、これが傷口に入ってしまえば傷口は感染してしまいます。ただでさえ褥瘡で困っているのに、そこに更に細菌感染が加わってしまうと褥瘡はどんどんと悪化してしまいます。

こんな時、ゲーベンクリームを使えば、銀が細菌に対して抗菌作用を発揮するため感染を防ぐことが出来、さらに皮膚褥瘡の治癒も促してくれるため、一石二鳥の効果を期待できるというわけです。

糖尿病で生じてしまった潰瘍にも使われます。糖尿病の患者さんは健常者よりもばい菌に感染しやすいことが知られているため、抗菌作用を持ったゲーベンクリームをあらかじめ使い、感染予防を行うのです。その他にも二次感染リスクの高い潰瘍にも用いられます。

ゲーベンクリームは安全性の高いクリームではありますが、新生児や低出生体重児では高ビリルビン血症が生じたという報告があったため、禁忌となっています。

また軽症の熱傷にも禁忌となっています。この理由は疼痛がみられたことが報告されているためです。しかし中等度・重度の熱傷には適応がありますので使えます。

ゲーベンは細菌の細胞膜・細胞壁を壊すことで抗菌作用を発揮しますが、わずかながら私たちの皮膚細胞に対しても同様の作用があると考えられます。となると、軽症の症例にゲーベンを使ってしまうと細菌をやっつけるというメリットよりも、自分の皮膚細胞をやっつけてしまうというデメリットの方が上回ってしまう可能性があるため、このように軽症熱傷に対しては禁忌となったのではないかと考えられます。

【ゲーベンクリーム(スルファジアジン銀)の特徴】

・銀が抗菌作用を持っている
・抗菌作用により副次的に肉芽形成を促進する
・新生児・低出生体重児には使えない
・軽症の熱傷には使えない
・浸出液の少ない創部に向いている

 

2.ゲーベンクリームはどんな疾患に用いるのか

ゲーベンクリームはどのような疾患に用いられるのでしょうか。ゲーベンクリームの添付文書には、次のように記載されています。

【効能又は効果】

外傷・熱傷及び手術創等の二次感染
びらん・潰瘍の二次感染

つまり、「皮膚の創傷」+「感染」の2つが生じている(あるいは生じている可能性が高い)場合に適応があるという事です。

臨床的にもこの2つが生じていそうな場合に用います。褥瘡で言えば、ただの褥瘡ではなく「感染している・あるいは感染リスクの高い褥瘡」で、具体的には肛門周辺の褥瘡に使う事が非常に多いです。

 

3.ゲーベンクリームにはどのような作用があるのか

皮膚潰瘍の改善に加えて、抗菌作用も併せ持つゲーベンクリームですが、、具体的にはどのような作用があるのでしょうか。

ゲーベンクリームで報告されている皮膚への作用について紹介します。ゲーベンクリームには大きく分けると次の2つの作用があります。

 

Ⅰ.抗菌作用

ゲーベンクリーム(一般名:スルファジアジン銀)は「銀」が含有されています。そしてこの銀が細菌の細胞膜・細胞壁に作用し抗菌作用を発揮することが分かっています。

ではゲーベンクリームはどのような細菌に対して抗菌作用があるのでしょうか。

やはり皮膚感染を想定して作られていますから、皮膚の常在菌や免疫力が落ちてしまった時にかかりやすい菌に効くように出来ています。具体的には、

・グラム陽性球菌(ブドウ球菌属、レンサ球菌属):皮膚の常在菌として多い
・グラム陰性桿菌(クレブシエラ属、エンテロバクター属、緑膿菌
・真菌(カンジダ属)

などに対して抗菌作用があることが報告されています。細菌だけでなく真菌(ガンジダ属)にも効果があります。

また銀の抗菌作用は、ゲーベンクリームが体内に吸収されることで発揮されるわけではなく、創部で細菌と接触することによって直接発揮されます。

 

Ⅱ.肉芽形成促進(皮膚潰瘍改善)作用

ゲーベンクリームの作用は、Ⅰ.の抗菌作用が主です。

そのため、ゲーベンクリームは基本的には感染している創部や感染リスクが高い創部に用いられます。

そして、実はゲーベンクリームには直接的な傷を治す作用というのはありません。

潰瘍や褥瘡、熱傷に使われるお薬ですから、傷の治りを早くする成分が含まれていると誤解されることが多いのですが、実はそうではなく、抗菌作用が主であり、細菌感染を防いだ結果として、二次的に傷の治りが早くなるのです。

しかし直接の傷を早く治す作用はないものの、創部を保護したり湿潤(潤す)させることで肉芽形成を促進するというはたらきはしているため、副次的ではありますが、肉芽形成促進作用があると考えられます。

ゲーベンクリームの一番の作用は抗菌作用であり、創部を治す作用ではありません。そのため、創部の感染が改善したり感染リスクが低くなったら、場合によっては別の塗り薬に変更した方がいい場合もあります。

殺菌作用があるゲーベンは、多少なりとも自分の皮膚に対して攻撃してしまうこともあるからです。ばい菌の細胞のみをやっつけて、自分の皮膚細胞にはまったく無害、という魔法のようなお薬ではありません。

実際、ゲーベンクリームは中等度・重症の熱傷に対しては適応がありますが、軽症熱傷に対しては「疼痛がみられることがある」という理由から使用できないことになっています。感染リスクが低い場合は、メリット(ばい菌をやっつけられる)よりデメリット(皮膚が傷付く)の方が多くなることもあるのです。

 

4.ゲーベンクリームの用法・用量と剤形

ゲーベンクリームは、

ゲーベンクリーム1%(スルファジアジン銀) 50g
ゲーベンクリーム1%(スルファジアジン銀) 100g
ゲーベンクリーム1%(スルファジアジン銀) 500g

の3つがあります。50gはチューブに入っており、100g,500gは壺のようなプラスチック容器に入っています。

ゲーベンクリームの使い方は、

1日1回,滅菌手袋などを用いて,創面を覆うに必要かつ十分な厚さ(約2~3mm)に直接塗布する。又は,ガーゼ等に同様の厚さにのばし,貼付し,包帯を行う。なお,第2日目以後の塗布に際しては,前日に塗布した本剤を清拭又は温水浴等で洗い落としたのち,新たに本剤を塗布すること。

と書かれています。

ゲーベンクリームは抗菌作用を持っており、感染が疑われる創部に使用されるため、原則は滅菌手袋で処置をすることが望ましいと考えられています。菌がついている可能性がある手で直接塗布してしまうと、手の菌が創部に移ってしまい、創部の感染をより悪化させてしまう可能性があるからです。

また、十分量をたっぷりと塗ってあげることが大切です。

 

5.ゲーベンクリームの使用期限はどれくらい?

ゲーベンクリームの使用期限って、どのくらいの長さなのでしょうか。

「家に数年前に処方してもらったゲーベンがあるんだけど、これってまだ使えますか?」

このような質問は患者さんから時々頂きます。

これは保存状態によっても異なってきますので、一概に答えることはできませんが、製薬会社による記載では「4年」となっています。

なおゲーベンクリームは基本的には室温・遮光で保存するものですので、この状態で保存していたのであれば「4年」は持つと考えることができます。反対に光などを浴びると徐々に変色することが分かっているため、光を浴びる場所で保存していた場合は、4年未満でも効能が失われている可能性があります。

 

6.ゲーベンクリームが向いている人は?

以上から考えて、ゲーベンクリームが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

ゲーベンクリームの特徴をおさらいすると、

・銀が抗菌作用を持っている
・抗菌作用により副次的に肉芽形成を促進する
・新生児・低出生体重児には使えない
・軽症の熱傷には使えない
・浸出液の少ない創部に向いている

というものでした。

ここから、基本的には「ばい菌に感染している傷」あるいは「ばい菌による感染リスクが高い傷」に対して用いられます。

具体的には、

・寝たきり患者さんの臀部や肛門付近に出来た褥瘡
・糖尿病患者さんに生じた傷

に対して用いられることがあります。寝たきり患者さんの臀部は、便によって傷が感染しやすいためです。また、糖尿病患者さんはばい菌に感染しやすい傾向があるため、あらかじめ抗菌作用を持ったゲーベンを使用することがあります。

ゲーベンクリームは抗菌作用を持ちますが、その作用により塗った部位に痛みを感じることがあります。また、新生児や低出生体重児には高ビリルビン血症が出たという報告から使用が禁止されています。ゲーベンクリームは浸出液の多い傷にも向きません。

ここから

・痛みが強い傷
・痛みに敏感な部位の傷
・小児(特に新生児や低出生体重児
・浸出液の多い傷

にはあまり向きません。