処方薬の効果と副作用

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デトルシトールカプセルの効果・特徴

デトルシトールカプセル(一般名:トルテロジン)は2006年に発売された頻尿・過活動膀胱治療薬です。

デトルシトールは膀胱の収縮を抑えることで頻尿を改善します。そのため、膀胱の収縮が過剰になっており、それによる頻尿で困っている方には役立つお薬です。

頻尿を改善するお薬にもいくつかの種類があります。どれも頻尿を改善してくれるものですが、その作用や特徴はそれぞれ多少の違いがあります。デトルシトールはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのか。ここではデトルシトールの効能や特徴を紹介していきたいと思います。

 

1.デトルシトールカプセルの特徴

まずはデトルシトールの特徴をざっくりと紹介します。

デトルシトールの特徴は、膀胱に集中的に作用することです(膀胱選択性が高い)。膀胱の過剰な収縮を抑え頻尿を改善させつつ、他の臓器に作用しにくいため副作用が軽減されます。

膀胱にはムスカリン受容体というものがあり、それにアセチルコリンという物質がくっつくと膀胱が収縮します。頻尿の方に対してデトルシトールを投与すると、デトルシトールがムスカリン受容体をブロックすることでアセチルコリンがくっつかないようにします。すると過剰な収縮が抑えられるため頻尿が改善するのです。

デトルシトールは徐放性製剤であるというのも特徴です。徐放性製剤とは、ゆっくり少しずつ身体に吸収されていく構造を持つお薬であり、ゆっくりと吸収されるため副作用が少なくなるというメリットがあります。

デメリットとしては、ムスカリン受容体選択性が低いことが挙げられます。ムスカリン受容体というのは1~5までの5種類があるのですが、頻尿の改善に関係しているのはムスカリン3受容体です(一部ムスカリン1,2受容体も関わっています)。そのため、できればムスカリン3受容体だけに集中的に作用して欲しいのですが、デトルシトールはムスカリン選択性が低く、他のムスカリン受容体にも作用してしまいます。

他のムスカリン受容体をブロックしてしまうと、抗コリン作用(口渇、便秘、尿閉)や不整脈などの副作用が生じてしまいます。徐放性製剤という特徴で副作用が少なくなっていますが、膀胱選択性は低いため、その点では副作用に懸念があります。

また、デトルシトールは基本的に1日4mgの投与しか認められておらず、減量することは可能ですが増量は不可能です。そのため、他のお薬と比べて細かい用量調整がしにくいというデメリットもあります。

以上からデトルシトールの特徴として次のような点が挙げられます。

【デトルシトールの特徴】

・膀胱のムスカリン受容体を集中的にブロックする事で頻尿を改善する
・ゆっくり吸収される徐放性製剤のため、副作用軽減のはたらきがある
ムスカリン受容体への選択性は低く、その点での副作用は少なくない
・投与法が固定されており、細かい用量調整がしにくい

 

2.デトルシトールカプセルはどんな疾患に用いるのか

デトルシトールはどのような疾患に用いられるのでしょうか。デトルシトールの添付文書には、次のように記載されています(2015年7月現在)。

【効能又は効果】

過活動膀胱における尿意切迫感、頻尿及び切迫性尿失禁

難しい専門用語が並んでいますが、ざっくりと言えば「おしっこの回数が多かったり、おしっこが間に合わない人」に対して、尿の回数を減らすことで改善させる効果があるということです。

過活動膀胱(OAB:OverActive Bladder)という疾患は、膀胱の本来のはたらきである「おしっこを溜めるはたらき(蓄尿能)」が低下してしまう状態です。主に高齢者に多く、少し尿が溜まっただけで排尿筋が収縮してしまい、尿意を感じるため頻尿になってしまうのです。

デトルシトールは、膀胱の異常な収縮を抑えることで蓄尿能を改善させ、過活動膀胱の頻尿に対して効果を発揮します。

ただし、頻尿であれば何にでも使っていいわけではありません。あくまでも膀胱の過剰な収縮が生じている過活動膀胱の頻尿を改善させるというはたらきになります。

別の原因で頻尿が生じているのであれば、デトルシトール以外のお薬の方が適切なことがありますので注意が必要です。

例えば、男性の頻尿であれば過活動膀胱ではなく、前立腺肥大症に伴って生じていることもあります。この場合はまずはデトルシトールではなく、α1遮断薬と呼ばれる、尿道の拡がりを良くするお薬から使用することが推奨されています。前立腺肥大症で尿道が狭くなっているのに、デトルシトールで更に排尿しにくくしてしまうと、かえって症状が悪化してしまう可能性もありますので注意が必要です。

また、尿路感染症に伴って頻尿となっているのであれば、治療はデトルシトールのようなお薬ではなく、抗生物質でばい菌をやっつけたり、水分をたくさん取ってばい菌を洗い流すことになります。この場合、デトルシトールを使うことによって尿の出を少なくしてしまうと、かえってばい菌が膀胱に留まりやすくなってしまい、病状が悪化してしまうこともあります。

デトルシトールは過活動膀胱に伴う頻尿には有効なお薬ですが、頻尿全般に使える万能薬ではありません。デトルシトールを使うべき頻尿であるのかどうかは主治医にしっかりと診察してもらい判断してもらいましょう。

 

3.デトルシトールカプセルにはどのような作用があるのか

デトルシトールは主に過活動膀胱の症状(頻尿)の改善に用いられます。つまり、尿の回数を少なくする作用があるということです。どのような作用によって尿の回数を少なくしているのでしょうか。

デトルシトールは膀胱の平滑筋という筋肉に存在するムスカリン3受容体(アセチルコリン受容体と呼ばれることもあります)のはたらきをブロックすることが主なはたらきです。そのためデトルシトールは「抗コリン薬」と呼ばれています。アセチルコリンに拮抗する(=ジャマする)ので「抗コリン薬」です。

アセチルコリンという物質が膀胱のムスカリン3受容体とくっつくと、膀胱は収縮することが知られています。

デトルシトールはムスカリン3受容体にアセチルコリンがくっつくのをジャマします。そうなると、膀胱が収縮しにくくなるため、頻尿が改善されるというわけです。

ちなみにムスカリン受容体は、1から5まであり、それぞれ全身に分布しており作用も異なります。その作用は複雑なのですが、ものすごくざっくりと言うと、

ムスカリン1受容体:主に脳に分布
ムスカリン2受容体:主に心臓に分布
ムスカリン3受容体:主に平滑筋に分布
ムスカリン4受容体:主に脳に分布
ムスカリン5受容体:主に脳に分布

となっています。

デトルシトールは主に膀胱平滑筋に存在するムスカリン3受容体に作用するお薬ですが、その他にも膀胱のムスカリン1受容体、ムスカリン2受容体にも作用します。

膀胱の収縮に一番関与しているのは、ムスカリン3受容体ですが、ムスカリン1受容体・ムスカリン2受容体も多少関わっています。そのため、これら3つに作用するデトルシトールは優れた頻尿改善効果が期待できます。

しかしムスカリン受容体の選択性が低いということは、余計な作用が出やすいという事でもあります。多くの受容体に作用する分だけ副作用も多くなってしまう可能性もあります。

 

4.デトルシトールカプセルの副作用

デトルシトールにはどんな副作用があるのでしょうか。

先ほど説明した通り、デトルシトールはムスカリン受容体をブロックするお薬です。ムスカリンの中でも膀胱に存在するムスカリン受容体に作用しやすく作られていますが、他の臓器に存在するムスカリン受容体にも作用してしまいます。

そのため、時に副作用が生じることがあります。

副作用としてもっとも多いものは、抗コリン作用と呼ばれるものです。抗コリン作用というのは、アセチルコリンをブロックするために生じてしまう作用のことです。ちなみにアセチルコリン受容体にはムスカリン受容体とニコチン受容体の2種類があり、ムスカリン受容体はアセチルコリン受容体の一つになります。

デトルシトールがムスカリン受容体のはたらきをブロックしてしまうと、口渇(口腔内乾燥)、便秘、霧視などが生じる可能性があります。頻度は低いですが重篤なものとしては尿閉(尿が出なくなる)や不整脈、麻痺性イレウス(腸が麻痺して動かなくなってしまう病気)が生じることもあります。

また、デトルシトールは腎臓と一部肝臓で代謝されるため、肝障害・腎障害が生じることがあり、それに伴い血液検査で肝臓系酵素や腎臓系酵素の上昇が認められることがあります。AST、ALTなどの肝臓系酵素やBUN、Crなどの腎臓系酵素の上昇が生じることもあることが報告されています。

特に肝障害や腎障害が元々ある方は特に注意しなければいけませんので、事前に主治医に自分の病気についてしっかりと伝えておきましょう。

 

5.デトルシトールカプセルの用法・用量と剤形

デトルシトールは次の剤型が発売されています。

デトルシトール錠(トルテロジン) 2mg
デトルシトール錠(トルテロジン) 4mg

の2剤型が発売されています。

デトルシトールの使い方は、

通常成人には4mgを1回1回食後経口投与する。なお、患者の忍容性に応じて減量する。

と書かれています。

忍容性というのは、「患者さんの副作用に耐えられる程度」のことです。忍容性が高いということは、患者さんが副作用に耐えられやすいという事であり、副作用が少ないことを意味します。

つまり、「忍容性に応じて減量する」というのは、副作用の程度に応じて減量する、という意味になります。

デトルシトールは半減期が約10時間ほどです。ただし徐放製剤のため、ゆっくりと効くため血中濃度が上がるまでにも時間がかかりますので、実際の薬効は10時間よりは長くなります。そのため、1日1回の服用となっています。ちなみ半減期とは、お薬の血中濃度が半分になるまでにかかる時間のことで、そのお薬の作用時間の一つの目安になる数値です。

また、デトルシトールは食事の影響をほとんど受けないことが報告されています。添付文書上は食後の服薬が指示されていますが、空腹時(例えば寝る前など)に服薬しても同様の効果が得られます。

 

6.デトルシトールが向いている人は?

以上から考えて、デトルシトールが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

デトルシトールの特徴をおさらいすると、

・膀胱のムスカリン受容体を集中的にブロックするため、膀胱以外に作用しにくい
・ゆっくり吸収される徐放性製剤のため、副作用が少ない
ムスカリン受容体への選択性は低く、その点での副作用は少なくない
・投与法が固定されており、細かい用量調整がしにくい

などがありました。

ここから、過活動膀胱と診断された方であって、

・なるべく副作用を少なくしたい方
・1日に何回も服薬したくない方
・他の過活動膀胱治療薬が効かなかった方

などに対しては良い効果が期待できる可能性があります。