処方薬の効果と副作用

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アクトシン軟膏(ブクラデシン)の効果と副作用

アクトシン軟膏(一般名:ブクラデシン)は病院で処方される塗り薬の1つで、皮膚潰瘍治療薬になります。1993年から発売されています。

皮膚潰瘍治療薬とは、皮膚に出来た潰瘍などといった創傷を治療するために用いられるお薬です。寝たきりの高齢者の方などに出来てしまう褥瘡を治すためにも用いられています。

軟膏はたくさんの種類があるため、それぞれがどのような特徴を持つのか一般の方にとっては分かりにくいものです。

アクトシン軟膏がどんな特徴のあるお薬で、どんな患者さんに向いているお薬なのか、アクトシンの効能や特徴についてみてみましょう。

 

1.アクトシン軟膏の特徴

まずはアクトシン軟膏の特徴を紹介します。

アクトシン軟膏(ブクラデシン)は、塗った部位の血流を増やすことで潰瘍の治癒を促進するお薬です。

アクトシンはちょっと面白い開発経緯を持つお薬です。というのも、最初は心臓のお薬として開発されているのです。実際「アクトシン注」は急性循環不全のお薬として1984年から発売されており、主に循環器領域で心不全治療などで用いられます。

アクトシン(ブクラデシン)は、末梢の血管を拡げることで循環不全を改善させます。末梢の血管が拡がると、末梢に血液が届きやすくなるため心臓にかかる負荷が下がり、循環不全を改善させるのです。

そして、この「末梢の血管を拡げる」という作用は「末梢の血流を増やす」という事になりますので、その部位に出来た傷の治りを良くすることも期待できます。アクトシンはこの発想から、「創傷の治療にも使えるのではないか」と考えられ、皮膚の塗り薬としても用いられるようになりました。

その後、創傷治療としてのアクトシンの研究が進むにつれ、アクトシンには末梢の血流を増やす以外にも、

  • 血管新生促進作用(創傷部位に新しい血管を作る)
  • 肉芽形成促進作用(創傷部位に肉芽組織を作り、治癒を促す)
  • 表皮形成促進作用(創傷部位で欠損した表皮の形成を促進する)

といった効果が認められ、褥瘡や皮膚潰瘍に対しての有効性が確認され、1993年に塗り薬として発売されました。

アクトシンはこのような経緯から、作用機序として「創傷部位の血流を増やすことで傷の治りを早くする」という特徴があります。

デメリットとしては、創傷面を乾燥させる傾向があることで、これは近年主流となっている湿潤療法(Moist Wound Healing)に反してしまう事があります。そのため元々浸出液が少ない創面においては、かえって傷口を乾燥させてしまうことがあるため使用に注意が必要です。

以上から、アクトシン軟膏の特徴として次のようなことが挙げられます。

【アクトシン軟膏(ブクラデシン)の特徴】
・塗った部位の血流を増やす
・塗った部位の肉芽組織形成を促進する
・塗った部位の表皮形成を促進する
・傷口を乾燥させる傾向があり、浸出液の少ない傷には不向き

 

2.アクトシン軟膏はどのような疾患に用いるのか

アクトシン軟膏はどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。

【効能又は効果】

褥瘡、皮膚潰瘍(熱傷潰瘍、下腿潰瘍)

アクトシン軟膏は、主に皮膚の潰瘍に用いられます。

ただしアクトシンの特徴として、傷口を乾燥させてしまう傾向があるため、浸出液の少ない傷には不向きです。

近年の創傷治療は湿潤療法(moist wound healing)が主流であり、傷口は湿潤環境で治療した方が早く・キレイに治ることが分かってきています。

アクトシンは創部を乾燥させてしまいやすいため、浸出液が多量の傷にはちょうどよいかもしれませんが、浸出液が少ない傷に対してはかえって治りを悪くしてしまう可能性があります。

どんな傷でもアクトシンがダメだという事ではないため、自分の傷にアクトシンが向いているのかどうかは、医師に正しく判断してもらいましょう。

また創傷面に用いる際の注意点としてアクトシンは、塗った創傷部位の血流を増やすことが主であり、

  • 抗菌作用(ばい菌をやっつける作用)
  • 壊死組織除去作用(死んでしまった組織を溶かす作用)

などはありません。

そのた、傷口にばい菌が感染していそうな傷や、壊死組織(黒っぽい死んでしまった組織)が多い傷に対しては、抗菌作用や壊死組織除去作用がある塗り薬の方が良いことがあります。

このあたりの判断は専門的な知識を要するため、医師によく判断してもらいましょう。

 

3.アクトシン軟膏にはどのような作用があるのか

アクトシン軟膏は具体的にはどのような作用があるのでしょうか。

アクトシンで報告されている皮膚への作用について紹介します。

アクトシンの主成分であるブクラデシンはcAMPの誘導体であり、細胞内でcAMPになります。cAMP(サイクリック・エーエムピー)は「セカンドメッセンジャー」と呼ばれ、シグナルを伝達することで体内で様々な作用を引き起こします。

具体的には次のような作用を発揮し、皮膚症状を改善させていると考えられています。

 

Ⅰ.血流促進作用

アクトシンは元々末梢血管を拡げることで循環不全を改善する作用を持つお薬として開発された経緯があります。

アクトシンの主な作用は末梢を拡げることで、同部の血流を増やすことになります。

血液からは細胞を作るための栄養分が運ばれてきますので、血流が増えると傷が早く治りやすくなるのです。

 

Ⅱ.血管新生・肉芽形成

アクトシン軟膏は血流を増やすだけでなく、同部の血管の新生を促進することが確認されています。アクトシンによって傷の部位に新しく血管が作られるのが促進されれば、それに伴って繊維芽細胞の増殖も促進され、肉芽組織の形成が促進されます。

【肉芽組織】
皮膚に傷が出来ると、そこに繊維芽細胞がきて同部は結合組織で補充され、更にそこに血管が新生されていきます。この毛細血管と結合組織からなるものを肉芽といいます。

肉芽は傷が治る過程において必要なものです。傷が治るにつれて肉芽組織は瘢痕組織となっていき、肉芽組織の上に表皮組織が形成されていき、傷は徐々に小さくなって治っていきます。

良性の肉芽組織の形成が促進されることは、傷が早く治ることにつながります。

 

Ⅲ.表皮形成

アクトシン軟膏は、皮膚表皮における重要な細胞である角化細胞(ケラチノサイト)の遊走・増殖を促進し、表皮形成を促進します。

アクトシンによってケラチノサイトが増えやすくなると、表皮が形成されやすくなるため、傷口が早く縮んでいきふさがっていきます。

 

4.アクトシン軟膏の副作用

アクトシン軟膏の副作用は多くはありません。アクトシン軟膏は塗り薬であり、全身に投与するものではないのでその副作用も局所に留まる事がほとんどです。

そのため、全身性の重篤な副作用はほとんどありません。

アクトシンはしばしば塗った部位に「刺激感(痛み)」や「発赤」を起こしてしまうことがあります。

これはアクトシンが浸出液を吸収し、傷を乾燥させてしまうことがあるからだと考えられます。そのためアクトシンは浸出液が多い傷では良い適応となることもありますが、浸出液が少ない傷の場合は傷口を乾燥させてしまうリスクもあるため、使用する部位には注意が必要です。

強い刺激感や発赤が生じる場合は、その傷にはアクトシンが向いていない場合も考えられますので、このまま治療を継続していいのか主治医に判断をあおぎましょう。

ただし、副作用はいずれも重篤となることは少なく、多くはアクトシンの使用を中止すれば自然と改善していきます。

 

5.アクトシンの用量・用法と剤型

アクトシンは、

アクトシン軟膏3%(ブクラデシン) 30g
アクトシン軟膏3%(ブクラデシン) 200g

があります。剤型としては軟膏のみですが、チューブに入った30gの小さいものと、瓶に入った200gの大きいものがあります。

アクトシンの使い方は、

病状及び病巣の大きさに応じて適量を使用する。潰瘍面を清拭後、1日1~2回ガーゼなどにのばして貼付するか、又は患部に直接塗布する。

と書かれています。

ちなみに塗り薬には、「軟膏」「クリーム」「外用液」などがありますが、これらはどう違うのでしょうか。

軟膏は、ワセリンなどの油が基材となっています。保湿性に優れ、刺激性が少ないことが特徴ですが、べたつきは強く、これが気になる方もいらっしゃいます。

クリームは、水と油を界面活性剤で混ぜたものです。軟膏よりも水分が入っている分だけ伸びがよく、べたつきも少なくなっていますが、その分刺激性はやや強くなっています。

外用液は水を中心にアルコールなどを入れることもある剤型です。べたつきはほとんどなく、遣い心地は良いのですが、保湿効果は長続きしません。刺激性が強めというデメリットがある反面で、浸透力が高く、皮膚が厚い部位でも効果が期待できます。

それぞれ一長一短あります。

アクトシンは軟膏剤のみが発売されています。

 

6.アクトシン軟膏が向いている人は?

以上から考えて、アクトシン軟膏が向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

アクトシン軟膏の特徴をおさらいすると、

【アクトシン軟膏(ブクラデシン)の特徴】
・塗った部位の血流を増やす
・塗った部位の肉芽組織形成を促進する
・塗った部位の表皮形成を促進する
・傷口を乾燥させる傾向があり、浸出液の少ない傷には不向き

というものでした。

まず不向きな創傷として、「浸出液が少ない傷」や「乾燥しやすい部位の傷」が挙げられます。

アクトシンは傷口を乾燥させる傾向があるため、元々乾燥しやすい傷に対しては乾燥を更に助長してしまいます。傷口は乾燥させすぎてしまうと、痛みを感じやすくなり、また治りも遅く、治り方も汚くなってしまいます。

反対に向いている傷としては、浸出液が多量な傷があります。浸出液が多すぎる場合は、アクトシンで多少乾燥させてあげた方がちょうどよい場合もあるからです。

またアクトシンならではの特徴である「血流を増やす事」という作用から、「血流が届きにくそうな部位の傷」などにも向いているでしょう。

具体的には高齢者の足先などは、人によっては常に血流不足で青白く冷たくなっている事があります。この部位に傷が出来てしまうと、元々血流が少ないためなかなか治らないことがあります。

この場合はアクトシンで血流を増やしてあげると治りが良くなることが期待できます。