処方薬の効果と副作用

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タチオン点眼液(グルタチオン)の効果と副作用

タチオン点眼液(一般名:グルタチオン)は1967年から発売されている点眼液です。

タチオンは主に2つの作用を有する点眼液で、「白内障の予防」と「角膜上皮の修復」のはたらきを持ちます。

タチオン点眼液はどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに使うお薬なのでしょうか。

タチオン点眼液の効果や副作用・特徴などを紹介していきたいと思います。

 

1.タチオン点眼液の特徴

まずはタチオン点眼液の特徴を紹介します。

タチオン点眼液は「白内障の予防」と「角膜上皮の修復」というまったく異なる2つのはたらきを持っています。

そのため、その用途も2つに分かれ、

  • 初期の白内障に対して、進行を予防するために用いる
  • 角膜上皮が傷ついた時に、その修復のために用いる

という2つのケースがあります。

いずれも効果は穏やかであり、白内障は初期の段階に対して用いられ、あくまでも「これ以上進行するのを予防する」のが目的で、白内障を治す力はありません。

角膜障害に対しては、角膜上皮細胞の増殖させやすくするはたらきがありますが、劇的な効果というほどではありません。

タチオンの主成分であるグルタチオンは、元々私たちの細胞内に存在する物質であるため、異物ではありません。そのため安全性は高く、副作用の頻度は少なめになります。

以上からタチオン点眼液の特徴として次のような点が挙げられます。

【タチオン点眼液の特徴】

・全体的に効果は弱めで穏やかに効く
白内障の進行を予防する効果を持つ
・角膜上皮細胞の増殖を促進する効果を持つ
・副作用は少なく、安全性は高い

 

2.タチオン点眼液はどんな疾患に用いるのか

タチオン点眼液はどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。

【効能又は効果】

初期老人性白内障
角膜潰瘍
角膜上皮剥離
角膜炎

先ほども説明したように、タチオンは「白内障の予防」「角膜上皮の修復」という2つのはたらきを持ったお薬です。

そのため、この2つに該当する状態の時に使用されます。

 

3.タチオン点眼液にはどのような作用があるのか

タチオン点眼液はどのような機序で作用を発揮しているのでしょうか。

タチオンの主成分であるグルタチオンは、3つのアミノ酸から成るトリベプチドであり、グルタミン酸システイングリシンの3つのアミノ酸から形成されています。

そのはたらきはいくつかあるのですが、眼に点眼することで期待される効果というのは主に2つになります。

タチオンにはどのような作用があるのでしょうか。詳しくみてみましょう。

 

Ⅰ.白内障の進行予防

白内障というのは、眼の水晶体と呼ばれる部位が白濁してしまう疾患です。

その原因として最も多いのは加齢ですが、糖尿病やお薬(ステロイドなど)の副作用なども原因となることもあります。

なぜ水晶体が白濁してしまうのかというと、水晶体のタンパク質が不溶性タンパクに変性してしまうことが一因だと考えられています。

白内障が発症する前段階として、水晶体中に元々存在するグルタチオンの低下が生じていることが確認され、そこから「グルタチオンを補充すれば水晶体の白濁を防げるのではないか」と考えられるようになりました。

初期の白内障にタチオン(グルタチオン)を点眼すると、減少していた水晶体のグルタチオンが増えるため、タンパク質の変性が抑制され、白内障の進行を予防することができます。

ちなみにタチオンのような白内障に対する点眼液は、あくまで白内障の進行を予防しているに過ぎず、発症してしまった白内障を治す力はありません。

白濁してしまった水晶体は、現状の医学では元に戻す事は出来ず、手術にて白濁部を除去し、眼内レンズを入れる方法が根本の治療になります。

 

Ⅱ.角膜上皮障害の修復

グルタチオンは、眼の表面である角膜の修復を促進するはたらきがあります。

どのような機序で角膜の修復を行うのかというと、角膜のコラーゲンを増やす作用があるのです。具体的にはコラーゲンの合成を促進し、分解を抑制するはたらきを認めます。

コラーゲンは私たちの身体の細胞を構成する重要なタンパク質で、細胞を分化・増殖させるはたらきも持っています。

角膜のコラーゲンを増やす事で、角膜上皮細胞が合成されやすくなり、角膜細胞の修復が促進されるのです。

 

4.タチオン点眼液の副作用

タチオン点眼液にはどんな副作用があるのでしょうか。

タチオンの主成分であるグルタチオンは、私たちの身体の細胞内に存在するぺものであるため、安全性の高い物質です。

そのためタチオンを点眼することで大きな副作用が生じることはほとんどありません。

生じる可能性のある副作用としては、

  • 眼のかゆみ
  • 眼の刺激感
  • 結膜充血

などが報告されていますが、いずれも頻度は低く、ほとんどがタチオンの点眼を中止すれば改善するような軽度の副作用になります。

 

5.タチオン点眼液の用法・用量と剤形

タチオン点眼液は次の剤型が発売されています。

タチオン点眼用(グルタチオン)2%  5ml

タチオンはちょっと変わったお薬で、錠剤と溶解液に分かれています。

使用する際は、使用前に自分で錠剤を溶解液に溶かしてタチオン点眼液を作らないといけません。

タチオン錠は1錠中にグルタチオンが100mg含まれており、溶解液にはベンザルコニウム塩化物(防腐剤)やホウ酸などが含まれています。

タチオン点眼液の使い方は、

溶解液5ml当たり還元型グルタチオンとして100mgを用時溶解し、1回1~2滴を1日3~5回点眼する。

となっています。

なおタチオン錠を溶解液に溶解したら、約4週間以内には使いきるように推奨されています。

 

6.タチオン点眼液が向いている人は?

以上から考えて、タチオン点眼液が向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

タチオン点眼液の特徴をおさらいすると、

・全体的に効果は弱めで穏やかに効く
白内障の進行を予防する効果を持つ
・角膜上皮細胞の増殖を促進する効果を持つ
・副作用は少なく、安全性は高い

などがありました。

タチオンは、元々生体内に存在する物質であるグルタチオンが主成分となり、安全性の高いお薬です。劇的な効果は期待できませんが、穏やかに効くというメリットがあります。

用途は、「白内障の進行予防」「角膜上皮の修復」の2種類になります。

ここから、これら2つの状態に当てはまり、程度が軽めの場合に用いる点眼液として向いています。

なお白内障に対してタチオンは、治療する効果はなく、あくまでも「これ以上悪くならないようにする」お薬です。白濁を治したい場合はタチオンの点眼では不十分で、手術を検討する必要があります。